勘違い主っぽいお話


 ――あぁ、どうしよう。やらかしてしまった。

 目の前に広がる惨状に、俺は内心で呻きながら頭を抱えた。
 倒れたテーブル。割れたグラスに零れたお酒。そして、白目を剥いて床に伸びている柄の悪そうな男たち。
 いや、実際に柄悪かったんだけど。
 だからつい手ぇ出しちゃったんだけど。

 ああぁ、カッとなったらうっかりやっちゃう癖どうにかしないとなぁ。
 いつか「カッとなってやりました」じゃ済まない事態に陥ってしまう可能性もあるし、そうなってからじゃ遅いしな…。
 よし、反省終わり! 帰ろう!

「待ちなよい」

 声と共に、がしりと腕を掴まれる。
 そのまま腕を引かれて、声の主の腕の中へダイブしてしまった。…じゃねええぇッ!

「…何をする」

 本当に何してんのアンタ! あぁもう、傍から見ると今のこれ『男が男をギュッ』の状態ですよ!?
 おかしいだろおおぉ!
 ビックリしてどもったじゃないか!
 ただでさえ口下手でロクに話せないっつーのに!
 えーと、えーと。とにかく手を離してもらわねば。俺は帰りたいんだ!

「……離せ。俺は帰る」
「そうツレない事を言うなよい。おれはアンタに助けてもらった。だから礼をしたいだけだよい」

 礼!? 礼ってお礼参り的な!?
 いやでも助けられたって言ったよな、この人。…あ、もしかして俺が殴り倒しちゃった奴等に最初に絡まれてた人か!
 あいつらが俺が食事してたテーブルにぶつかって、そのせいでせっかく最後に食べようと思って寄せておいたフルーツが床に落ちちゃったからついプッツンしちゃったんだっけ…。
 思い返してみれば、なんて短気なんだ俺。もうイイ歳なんだし、もっと大人になれ俺。

 まぁ俺のことは置いといて。

 結果がどうあれ、別に助けたってわけじゃないし、気まずいからそこはちゃんと正直に言った方がいいよな!

「俺が勝手にやったことだ。アンタが気にすることはない」

 だからお礼とかいりませんよー!

「そういう訳にもいかねぇよい。それともおれからの礼は受け取りたくねぇかい?」

 …お礼の押し売りって、どう断ればいいんですかね?